毒か薬か

基本的に週に一回の更新です。毒か薬にはなることを書きます。

アイドルバンドセット問題

 アイドルがたとえばライブハウスで数組共演する時、普通はカラオケ音源を流して、歌うことになる(歌も流している人たちもいるけれど)。バンドなどでも「同期」といわれる音源をつかって、演奏している人間だけでは足りない楽器の音を流すことはあるけれど、基本的にすべてをカラオケにすることはほとんどないから、これもバンドとアイドルのライブハウスでの大きな違いになっている。(機材の問題がないから、アイドルのライブでは各出演者のステージとステージの間の転換時間がほとんどなく、良くも悪くもかなりスピーディな感じがする、など)。まあつまりアイドルにせよシンガーソングライターにせよバンドにせよ、ライブハウスでの演奏の仕方はおおきくわけてこのカラオケか生演奏(生バンド)バンドがあるわけである。

 ところで、カラオケと生バンドどちらがライブが音楽的によくなる可能性があるかといえば、それは生バンドだろう。音楽的に、という表現が雑すぎることを承知でかいているのだけれど、ライブという文字どおりライブなので、日によっていろいろな状況がある。気温、湿度、演者の体調、お客さんの反応、いろいろあってそれに少なからず対応してパフォーマンスしようとすると、演奏はその都度少しずつかわることになる。カラオケ音源では、当然あるものを使うしかないので、その変化を演奏中に出すことは不可能だ。*1

 とまあ、そんなことは大体みんなわかっていて、アイドルでも、ステージが大きくなったり、しっかりとそれに見合う予算がついてきたり、あるいは音楽的な志が高かったりすると、生バンドセットで演奏することになる。
 ところが、これが必ずしもよくなるわけではない。まずアイドルのカラオケというのは、(少なくとも僕が関わっているものは)プロの演奏家が時間をかけてつくっているものなので、演奏に関してはかなり高度なことをやっていることが多い。それに対して、ライブというのは当然その場でのミスもあれば、組み合わせによる微妙なズレもある。実際にはそれ自体はさほど大きな問題ではない。正しさよりも上位互換なミスもあるし、ズレが気持ち良いバンドなんてほとんど全部のバンドだ(ぴったりあってるというのはそもそもよくわからない概念なので)。問題は当たり前だけれど、そこにどうしてもクオリティの差が出てくるということだ。
 またライブハウスの音響面での問題、規模感などの問題もある。アイドルを観に来る人のほとんどは(たぶん)アイドル本人を観に来るだろうから、そうなるともっとも大事になるのは歌とダンスだ。これらを生かせない演奏であれば、それはかなり本末転倒なのだけれど、実際そういうことは頻繁におこってしまう。たとえば先日フィロソフィーのダンスがイベントではじめて「オール・ウィ・ニード・イズ・ラブストーリー」という曲を生バンドでやったのだけれど、正直かなり微妙だった。自分たちが作った曲なのでなおさらなのかもしれないけれど、このくらいの規模感ではバンドセットは難しいといわざるをえない出来だったので、なんでもやればいいってもんではないこともよくわかってしまった。(やらなきゃわからないというのはプロとして言い訳だな、とも痛感)。先日も別のグループで正直これはバンドセットでやらなくていいな、と思うシーンがあった。なんせカラオケのときはまったく気にならなかったが、普通にきいていて歌が聞こえなかったのだ。論外といってもいいかもしれない。

 フィロソフィーのダンスは今、歌とダンスがものすごいレベルに達してきているので、正直それだけでもバンドファンにだって、自信をもってライブを見てもらえると思う。(ついでにいうと、最近はMCもかなり良い感じになってきた)
 すべてを生演奏することにこだわらなくても、例えばNegiccoのホーンだけ入ったライブセットも素晴らしかったし、でんぱ組.incの代々木体育館以降のでんでんバンドの演奏は生バンドならではクオリティがあって最高だったり、とアイドルのバンドセットにもいろいろある。BABYMETALはもはや、神バンドの存在無くしてはありえないだろう。おやホロのアヒトイナザワドラムをまだ未見なのはかなり悔しい。
 基本的にバンドセットのほうが、よくなることは間違い無いのだから、バンドセットでマイナスになる状況なら、普通にカラオケで良い歌唱とダンス。それでも最高のライブは作れると思います、アイドル運営のみなさま。

*1:カラオケでもグループによっては、パラ音源あるいはステム音源といって、ドラムやベース、ギターなどのそれぞれの楽器を別々にデータとして出していれば、ライブ中にPA(音響担当)が操作することによって例えばギターの音量をあげたり、エフェクトをかけたりすることはできる