毒か薬か

基本的に週に一回の更新です。毒か薬にはなることを書きます。

「オドループ」と「リサイクル」のはなし

先日イベントの楽屋で、KEYTALKの小野武正さんとご一緒した際に、MINT mate boxのメンバーに音楽の理論のお話をしていただいて、これがとっても面白かった。
で、家に帰ってミントの曲の音楽理論的な部分について少し考えて見た。ミントといえば、Youtubeでのコメントでも結構な数あるのが「リサイクル」という曲がフレデリックに似ている!という話。特に「オドループ」というフレデリックの楽曲に「リサイクル」が似ているというコメントが多かった。畏れ多い話で、気持ち的には嬉しいのだけれど、もちろん良い意味なのか悪い意味なのか、それはかいてる方によって色々あって、まあ作曲編曲者の実感としてもたしかに似ているようにも思う。ということで、具体的にはどういったところが似ているのだろうか。

www.youtube.com

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まず、大前提として、曲は「リサイクル」のほうが当然後に作られたものであって、「オドループ」という曲の存在を、「リサイクル」をつくる際にもちろん僕は知っていた。しかし曲を作る上では特別に意識はしていなかったと思う。というのも、実は割と同時期に別の仕事でアレンジした曲の中で「オドループ」のアレンジ上のとある点を意識した楽曲があったので(興味ある方は探してみてください)、それとの差別化という意味でも同じタイミングで同じ曲を具体的な参考楽曲にあげるということは流れ上考えにくい。もちろん、その時期に良くきいており、しかもこの「オドループ」という曲が僕は非常に好きなので(その理由も色々あるので後述します)、無意識に心のどこかにそれがあった可能性がないとはいえない。
 ということを前提にしつつ、曲の中身を見てみよう。「オドループ」に関してはもちろんフレデリックの作品であるため、基本的な事項は推測だが、ある程度音楽の理論や定義の決まった言葉で説明することはできる。

まず、
「オドループ」も「リサイクル」も実はbpmといわれる所謂、曲のスピードがどちらも172で同じである。いきなりこれがおなじでびっくりかもしれないが、もう少しふみこんでみていってみよう。いわゆるポップスやロックなどの曲はその多くは80-180くらいの間にほとんどのbpmがあって,
80-110 ゆっくり
110-140 中くらい
140以上 速い
といったように大体わけることもできる(まあもちろんこれはあまりにも雑な分類なので感じ方は人それぞれではあるけれど)。
なので、172というのはかなり速い曲の部類に入るだろう。ここまでは、とりあえず速い曲という分類に二つとも入ったというだけのことなので、まあそれほど不自然なことではない。ではどうして172という数字で同じになったのだろうか。考えられるのは以下の理由である。音楽、特にポップスの世界では、4の倍数で色々なこと考えることが多い。たとえば4分の4拍子といって一小節に四分音符が4つぶん入るという構成で作られている曲は非常に多く、かなり暴論で言えばJPOPの大半はそうだといえるだろう。(例えばバラードなどで違う曲も多いので、さがすのも面白いかも)。で、これらの曲では、AメロとかBメロとかといわれる各ブロックの小節の数も4とか8になることが多い。これにも色々な理由づけが考えられるが(例えばコード理論など)、感覚にうったえるならばその数で曲が展開していくのが気持ちいいと感じる人が多いという感じだ。4の倍数とはポップミュージックにおいてもっとも基本的な数字である。
172という数字は4の倍数であるのでたとえば171とか173とかよりは出てくる可能性が高いということがこれで少しわかるだろうか。例えば、bpmが120というのは1分間に120回うつということなので(もちろんこれも4の倍数)、時計の秒針の二倍のスピードだからこの120というbpmは人間にもかなり馴染みがある。ここから4ずつ変化させて曲の bpmを決めることが多い。メトロノームというこのbpmを一定の間隔で音をだして、テンポをとるための道具があるが、昔の質があまりよくないメトロノームは、bpmが120から4ずつしか変化できないものもあった。(今はだいたい小数点刻みでも変えられる)
パソコンを使って、曲をつくりはじめるとき、僕自身はこのbpmを最初にきめるので、その際にこの4の倍数理論に基づいて、ひとまず4の倍数でbpmを決めることになる。180というのが時計の速さの二倍である180のさらに1.5倍なので、これはかなり速い。それよりも少し遅いくらいで172ということになった、というのがリサイクルのbpmを最初にきめたときのイメージだったと思う。
バンドなどで曲を作っていく中で、「もう少し遅いほうがいいな」とか「もっともっとはやくしよう」とか「パートごとにbpmを変えよう」いったように変化していくことはもちろんたくさんあるが、この最初に作曲する人が仮で決めたbpmのまま発売される音源がレコーディングされることも少なくはない。

さて、次にこのbpmにも少し関係してくるが、サビで使っているドラムのリズムパターン、これはどちらも所謂「4つ打ち」といわれるものである。
https://www.buzzfeed.com/jp/misatoshibuki/kana-boon-quiz?utm_term=.ccLwL6lABX#.uhR7ox50pN
KANA-BOONのみなさんが作ったというこのクイズにも出てきて面白いのだけど、いわゆる邦楽のロックにかなりよくでてくるドラムのパターンである。ざっくりといえば、4分の4拍子の一小節の中でまず頭からバスドラム(「ドッ」みたいな音)が均等に4回、それと同じ箇所に、ハイハットのクローズ(「ツッ」みたいな音)が4回、さらにその間をうめるようにバスドラムバスドラムの間にハイハットのオープンが4回、さらにバスドラムの2回目と4回目のところにスネア(「パン」みたいな音)がでてきて、
「どっつーどっつー」というかんじで(文字で書くとなんとも間抜けなんだけれど)、踊りたくなるようなリズムがこの「4つ打ち」といわれるもの。これも意識してきくと、信じられない数の曲で使われているフレーズといえる。

と、ここまで、主にドラムを中心にしてリズムのことを書いたが、実際にスピードやドラムのリズムパターンというのは他の音程がある楽器にくらべるとかなりやれることに縛りがある。もちろん音楽なので何をやったって理屈上はいいのだけれど、人がきもちいいと感じるリズムのパターンというのはメロディなどの音の並びにくらべて限られているといえるだろう。実際、bpmをきめたドラムパターンだけをきいてそれがどの曲かわかる(つまり、曲がひとつに定まる)ということはほとんど考えられない。もちろん、非常に個性的なドラマーがそれを叩いた場合そのドラマーの個性としてそれがわかる場合(たとえばレッド・ツェッペリンのドラマー、ジョン・ボーナムなど)もあるし、あまりに斬新なドラムパターンによって、それがその楽曲だとわかる場合もなくはない(ニュー・オーダー「ブルー・マンデー」など)。がしかし、グルーヴといわれるようなそれぞれの個性に近いものも、あくまでバンド全体の中で生まれてくるものだ。

ということで、サビに関しては、スピードとドラムのパターンが同じということがわかった。そしてまたそれだけだったら、他にもそういう曲はありそうかな、というのもわかったと思う。なので、多分おおくの「似ている」と思った方の理由はこれだけではないだろう。

次に考えられるのは、コード進行である。曲には基本的にキー(調)といわれるものが決まっている。ピアノなど、譜面をみることがある人にとっては譜面の最初のところにシャープやフラットが何個ついているかという話で、そちらの世界では例えば「ハ長調」とか、そういう名前がついている。さてそれでいうと「オドループ」はト長調(G)、「リサイクル」はイ長調(A)で、キーは違う。キーが違うと出てくるコードも違ってくるので、これでめでたく違う曲、といいたいところなのだけど、そう簡単な話ではない。カラオケなどにいったことのある方の中には、たとえば女性が男性ボーカルの曲を歌おうとして歌いづらく音程を「+3」などにする機能を使ったことがあるという人もいるだろう。なんでああいうことが簡単にできるかというと、違うキー同士でもそれぞれには対応する音があって、その音に当てはめていけば、高さがかわっただけで、おなじようなメロディであるととらえることができるからである。これを転調という(「転調」という言葉の意味は微妙に何をさすのか場合によってかわってくるので、ここでは上記の内容を転調ということで)。だから違うキーで、違うコード進行にみえても、実は片方の曲を転調して、もう片方の曲のキーに対応させてみると、実はおなじ形式のコード進行だ、ということは非常によくある(というか世の中にあるほとんどすべての曲が転調まで含めればなにかとはコード進行が同じだ)。肝心の2曲をみてみると、サビの最初のコードが
オドループでは
G→A
となっていて
リサイクルでは
D→E
となっている。用語は知りたい人だけ抑えてもらえればいいのだけど、これはどちらも
サブドミナントドミナント
という進行で早い話、転調すれば同じコード進行なのである。
具体的にはもしリサイクルを一音下げて演奏したとしたら、このサビの頭の2つのコードは同じ進行になるというわけだ。

で、またか、と思われるかもしれないが、実はこのサビの最初に
サブドミナントドミナント
という進行はちょっとどころじゃないくらいよく使われている。世界中で代表曲をあげるのもちょっとおこがましいくらいたくさんある進行だ。MINT mate boxやフレデリックの他の曲にもある。しかしここまでのリズムの件もあって、これでかなり似てくる可能性も高くなってきたことは間違いない。

さてサビのコード進行に関しては、「オドループ」と「リサイクル」では、このあとの展開が異なる。前述のオドループを僕が大好きな理由もここからなのだけど、サビのみっつ目までは同じコード進行で4つ目にルート音であるDがでてくる(といってもここはつぎにもどってくるGの5度ととらえるのがいいのだろうけど)、そしてこのあとさらに印象的な部分(歌詞の「気に入らないよ〜」のところ)ではルート音から5度のAがメジャーからAmになっているし、サビのおわりはさらにBmからA#mという半音の経過音をはさんで、コードが進行していく。これはいわゆるキーからすると少し不安定(というような用語法があるということです)な進行で、これが「オドループ」の独特の浮遊感につながっていて、かっこよさとおしゃれさが素晴らしいバランスにミックスされている。「リサイクル」は逆に安定なコード進行のみをつかって、サビの張り詰めた疾走感をだしているのだけれど、そのように聞いてみるとサビの後半にいくにしたがって曲の印象が違ってくるのがわかるかもしれない。

というようにサビの入り方で、似ていると感じる要素がでてきたのだが、さらにもう一つ、サビに入るメロディで
オドループであれば
「踊ってない夜を〜」
の最初の「お」

リサイクルであれば
「あのころの理由〜」
の最初の「あ」

というそれぞれ一音ずつが、サビの小説より8分音符ひとつ分先に入る。これもメロディのリズムパターンが同じとなるため、この二曲の印象が近くなる理由といるかもしれない。

さがしていけば、他にも色々と似ていると感じる理由はあるかもしれない。
「オドループ」は、このサビのコード進行の仕掛け以外にも、イントロのフレーズ、そして音作りの素晴らしさや、あとは例えばミュージックビデオの仕掛けのおもしろさなど、mintからすればまだまだ及ばない点も非常に多くて、似ていると思う、と僕がいうのはあまりにも雑な発言になってしまうかもしれないのだけど、
フレデリックの音を最初にきいたとき、きっとこのサウンドを構築している中には自分と同じように80sニューウェーブが好きな方がいるんじゃないかなと勝手に思ったり、フレージングにやられたと思ったことが多かったので、きっとまだまだ難しいのだけれど、いつかMINTとフレデリックが対バンするようなことがあったらすごく嬉しいだろうなと、
思いました。