毒か薬か

基本的に週に一回の更新です。毒か薬にはなることを書きます。

J-POP恋愛論 0.2「恋愛とは何か」

 前節でも書いたように、恋愛はそれを現象としてみればある文化的な枠組みのなかで表現されるようなものである。たとえば、現在では多くの日本人は結婚の前提として恋愛があると考えるだろう。しかしこれは歴史的に見れば異常な状況である。かつて結婚は、ほとんど生得的に決定されたようなものであったし、今でもそのような結婚は世界のいたるところで存在する(もちろん日本にもある)。結婚とは制度的な概念であるが、その前提としてともすれば感情の問題であるといえる恋愛がおかれているのも不思議な状況といえるかもしれない。しかし、結婚は愛し合うもの同士がする、というのは今の日本においてはまったく自然なこととして受け入れられている。このように恋愛も、我々が位置する文化の中で、ひとつの文化的現象として他の概念と結びついている。例えばあるカップルの恋愛のはじまりをえがいた楽曲があったとしたら、この二人がこの後どうなるのかということを想像したときに例えば「付き合いはじめる」とか「その後結婚する」というようなことがイメージ出来るが、そのどちらであってもある文化の中での概念に結びついている。

「付き合う」というのは制度的なものではなく、個人の約束のレベルだが、今我々の通常受容している文化の中でも「二人以上の人と付き合ってはいけない」とか「付き合う、別れるという時系列的なポイントでは相互の了承が必要である」とかといった暗黙のルールがある。これらは、少なくとも制度的には、あるいは論理的にはそうでなくても良い(筆者がそう思っているということではないので注意)のだから、当然あるコミュニティの中でしか認められない。しかしそのような前提のもとで恋愛の楽曲を論じたのでは、まったくただの抽出になってしまう。前節でも述べたように、J-POPの恋愛を扱う理由はそこにある。つまりある程度の恋愛に関する前提としてのルールや、基本概念をもっていることを確認した上で、それらの多様な現れを分析するのと同時に、実際にそのような前提やルールは誰にとっても自然なものなのかということや、それらを破るようなストーリを見ていくことこそを以下での目的にしたい、ということである。

 であるから、ここで恋愛とは〜である、というように定義付けすることは控えておきたい。これらは各曲の分析をしていくなかである部分では明示的に、ある部分では非常に微妙な形で現れていくものである。