毒か薬か

基本的に週に一回の更新です。毒か薬にはなることを書きます。

僕何歳

 日本語の用法には色々な不思議がある。そもそも絶対的なスタンダード言語はあってもなくてもよいのだから別に他の言語と比べて変なところがあっても良いのだけれど、その言語の内部での「何でこんな言い方があるのか」わからない言葉遣いだけでも枚挙にいとまがない。

 

 さてその中でも子供の頃から頻出度トップクラスの謎な用法が

「僕何歳?」

というタイプの疑問文だ。これは大人が小さな子供(男の子)に年齢を訪ねている。英語でいえばHow old are you?で中学校一年生でも理解できる意味内容だ。

 ところがこの文をごく普通によめば、「わたしは何歳なのでしょうか?」という自分に関する疑問だと読める。(やや面倒な話になるので、その理由はこのカッコ内で。読み飛ばしても可。簡潔に文の真偽をその文の意味とするならば、人称代名詞、特に一人称の変更によってその意味は変化しないはずである。ところがもしこの「僕」を他の代名詞、「私」などに変えたら意味が変わってしまう)

 

 なぜこのような言葉の使い方があるのだろうか?学術研究ではないので、思ったところを書くだけだが、こんな風に考えることができるかもしれない。

 

 小さい子供は、人称代名詞の使い方、あるいはその適用の範囲に関して正しい知識を持っていない可能性がある。たしかに、子供は自分の考えや、自分の行動を説明するときに過剰に「僕は〜」とつける。日本語の発話では、かなりの場合これが省略されても意味内容は正しく伝達されるのだか、子供にとっては僕、とつけなければ正しく伝わらないと潜在的に感じてそのように使っているとすれば、転じて大人がたずねる「僕何歳?」という疑問は、「僕」というのが他ならぬ質問の対象であるその子供である、ということを明示しているのかもしれない。

 しかし、この推論には大きな問題がひとつある。それはこの「僕何歳?」に対応する、女の子への問いかけ方が存在しないことである。僕、といったら大抵は男の子への問いかけであるが、上記の議論は女の子でも同様に言えるのではないだろうか。もしかしたら女の子には、やはり男の子とは違う自我があり、それが人称代名詞の理解の違いにつながっているのかもしれない。